死亡事故について
交通事故によっては、被害者の方がお亡くなりになられてしまう場合があります。ある日突然、大切な方を失われたご遺族の方の悲しみは計り知れないものです。
しかし、死亡事故の被害に遭われた場合、ご遺族の方しか被害者に代わって損害賠償請求を行うことはできません。そのため、ご遺族の方は、悲しみを癒やす十分な時間もないまま、加害者側と示談交渉を行わなければならなくなります。 |
示談交渉について
①示談が成立した場合
交通事故の被害者がお亡くなりになった場合、損害賠償請求の主体となるのは被害者のご遺族(相続人)です。
弁護士に示談交渉を依頼しない場合、相続人が直接、保険会社の担当者と交渉することになります。この場合、保険会社担当者より相続人に対し、示談金の算出に必要とされる資料(生前の収入に関する源泉徴収票など)の提出を求められることが一般的です。相続人が損害算定に必要な資料を保険会社に提出しますと、これを元に保険会社が示談金を算出し、相続人に提示されることになります。
弁護士に示談交渉を依頼する場合は、弁護士が相続人に損害算定に必要な資料を集めてもらい、これを前提に弁護士にて加害者に支払を求める損害賠償請求書を作成し、これを保険会社に提示します。その後、保険会社から当該請求額に対する回答がありますので、回答額が十分でない場合、弁護士にて増額交渉を行うことになります。増額交渉の結果、保険会社から適正な賠償額の提示が得られた場合は、示談を成立させます。この場合、示談成立の証として示談書の取り交わしを行うことが一般で、示談証の取り交わし後、保険会社より示談金が支払われることになります。
加害者に損害賠償請求できる費用の項目において説明しますが、裁判外の示談交渉においては、特に慰謝料や逸失利益について、保険会社は裁判所が採用する計算基準を採用しないことが多いため、相続人が適正な賠償金を受領するために裁判を提起することを選択せざるをえないことが多いのも実情です。
②示談が成立しなかった場合
示談が成立しなかった場合には、多くの場合、相続人を原告とし加害者を被告として、損害賠償請求訴訟を提起することになります。裁判において、相続人と加害者が主張する損害額に争いがある場合、裁判所が過去の裁判例で示されている基準等に則って適正な金額を認定することになります。
損害賠償できる費用について
①葬儀費用について
過去の裁判例において、交通事故の被害者の方が亡くなられた場合に遺族が支出した葬儀費用について、「その支出が社会通念上当と認められる限度において」加害者に請求できる損害として認められるという基準が示されました。
しかしながら、現実に行われる葬儀の内容や規模は、被害者の社会的地位や地域の慣慣等によって異なることが通常です。そのため、葬儀費用の内訳や内容を逐一分析して社会通念上相当と認められる限度かどうかを判断するのは非常に困難ですし、裁判所が葬儀の内容や要する費用に関する専門的な知見を有している訳ではありません。
そこで、実際の裁判実務では、個別具体的な葬儀の金額や内容に立ち入ることなく、原則として150万円までを社会通念上相当と認められる限度の葬儀費用として認定する取り扱いをしています。
被害者の遺族等が現実に支出した金額が150万円を下回るときは、損害賠償額として認められる金額は150万円ではなく現実に支出した金額となります。
②治療費、入院費について
交通事故の被害に遭われた方の中には、受傷後治療を続けたものの不幸にも亡くなられてしまう方もおられます。
そのような場合、治療に要した病院の治療費や入院費用が発生することになりますが、この治療費や入院費用も、交通事故と相当因果関係のある費用として加害者に請求できる損害となります。裁判実務上、入院費用は、1日あたり1500円の定額の請求ができる扱いが取られています
③遺失利益について
死亡事故の逸失利益とは、交通事故にあった被害者が、交通事故に遭わなければ将来得られたはずの収入のことをいいます。例えば30歳のサラリーマンの場合、67歳までの残り37年間で得られたであろう収入が逸失利益として損害額に加えられます(逸失利益を算定する際、就労期間の終期は67歳に設定されます)。
【死亡事故による逸失利益の計算方法】
①被害者の年収 × ②「1-生活控除率」 × ③就労可能年数に対するライプニッツ係数
④死亡慰謝料について(慰謝料の相場について)
交通事故の被害者がお亡くなりになった場合、加害者に慰謝料(死亡慰謝料)を請求することができます。死亡慰謝料には、被害者本人の慰謝料と遺族(被害者の近親者)の慰謝料とがありますが、裁判実務上、これらを明確に区別せず、被害者本人と遺族の慰謝料を含むものとして慰謝料の基準額を定めています。
裁判所が定める目安の基準額は、被害者が一家の支柱(被害者の世帯が主として被害者の収入によって生計を維持していたときをいいます)のときは2800万円、被害者が母親や配偶者のときは2500万円、その他独身の男女、子供、幼児等の場合は、2000万円~2500万円とされています。
このように被害者の属性によって死亡慰謝料の金額に差が付けられている理由は、死亡慰謝料には被害者本人分だけでなく遺族分の慰謝料も含まれており、被害者の属性により、被害者と親族との間の精神的・経済的依存度が異なるためです。残された遺族に対する経済的・精神的苦痛の大きさを考慮し、死亡慰謝料を調整しているのです。
上記の金額を一応の目安として、加害者に飲酒運転、無免許運転、著しい速度違反、殊更な信号無視、ひき逃げ等が認められるとき、被害者の被扶養者が多数いるとき、損害額の算定が不可能または困難な損害の発生が認められるときなどには死亡慰謝料が増額され、これらとは逆に、相続人が被害者と疎遠だったときなどには死亡慰謝料が減額されます。
なお、上記の目安の基準額は、あくまで裁判を提起した場合に裁判所が採用する基準額と考えられているため、裁判外の示談交渉において、保険会社が同様の金額を提示することは少ないです。ただし、裁判外の示談交渉においても、相続人が弁護士に示談交渉を依頼している場合には、裁判所の基準と同額の適正な金額を受領することが可能となります。
慰謝料の他に、逸失逸失についても、弁護士に示談交渉を依頼していない場合においては、相続人の請求額と保険会社との見解の相違が生じる損害といえますが、いずれも損害額としては高額ですので、相続人が適正な賠償金を受領するためには、弁護士に交渉や裁判を依頼されるのが良いといえるでしょう。
⑤近親者の慰謝料について
死亡慰謝料の説明において、裁判所が示す慰謝料の基準額には、被害者本人と近親者の慰謝料の両方が含まれていると説明しましたが、ここでいう近親者とは、被害者とどこまでの関係がある人を指すのでしょうか。
この点、民法711条には「被害者の父母、配偶者及び子」が近親者として慰謝料請求できる主体として規定されています。したがって、被害者の相続人でなくとも、民法711条の主体として近親者固有の慰謝料請求をすることが可能となります。例えば、死亡した被害者に、親、妻、子という家族がいた場合、妻子が法定相続人となる一方、親は法定相続人とはなりませんが、親も近親者固有の慰謝料を請求できることになります。
また、民法711条に規定されていない近親者、例えば、祖父母、孫、兄弟姉妹についても、個別の事案において被害者との間に特別に緊密な関係があったことが主張、立証できる場合には、民法711条に準じて固有の慰謝料が認められることがあります。
もっとも、民法711条に規定される近親者に準じる者として固有の慰謝料が認められる可能性があるケースかどうかの判断は簡単ではありませんので、加害者に対する慰謝料を請求したいとお考えの方は、弁護士にご相談されることをお勧めします。